はじめに
ここでは当院の受診・入院をお考えのリウマチ・膠原病患者様およびご家族様に向けて、リウマチ・膠原病という疾患について、とリウマチ・膠原病センターを開設するに至った経緯、をお話しさせていただきます。そして最後に当センターをどのようにお役立ていただけるか、についてお話しさせていただきたいと思います。
リウマチ・膠原病について
まずリウマチ・膠原病という病気ですが、これはもともと人間に備わっている免疫という機能が間違った働きをすることで起こると考えられています。免疫とは「疫を免れる」と書きますが、細菌やウイルスなどから自分の身を守ってくれる機序のことを指します。リウマチ・膠原病では本来微生物をターゲットにするはずのこの免疫機能が誤って自分をターゲットにしてしまうことで起こる病気です。
膠原病疾患には、関節リウマチ・全身性エリテマトーデス・全身性強皮症・炎症性筋疾患・シェーグレン症候群・血管炎症候群・ベーチェット病・リウマチ性多発筋痛症・脊椎関節炎など様々な疾患が含まれます。
関節リウマチは膠原病の一種に分類されていますが、ここ十数年で治療が大きく変わった疾患の一つです。以前の関節リウマチと言えば、関節が壊れてしまい最終的には寝たきりになってしまう可能性の高い疾患でありました。しかし1999年にメトトレキサート(MTX)、2003年以降では生物学的製剤(点滴や皮下注射)や分子標的薬といった薬が次々に保険適応となったことで、現在では関節破壊を止めることが可能になってきました。当科におきましてもこれら最新の薬剤を積極的かつ適切に使用し関節リウマチ診療を行っております。
関節リウマチ以外の膠原病では疾患にもよりますが、治療にステロイド(副腎皮質ホルモン)や免疫抑制剤を使うことが一般的です。これは自分に対する免疫反応を抑えることが病状の改善につながるですが、免疫反応を抑えると外敵(細菌やウイルス)に対する抵抗力も落ちてしまうため、感染症にかかりやすくなってしまいます。その他、ステロイドには様々な副作用が生じることが知られておりますが、当科ではそういった副作用対策も各科と相談しながらご対応させていただいております。
リウマチ・膠原病センターについて
このように関節リウマチの薬物治療は大きな進歩を遂げてきましたが、それでも関節注射や関節手術など整形外科の先生にしかできない治療も依然として多く存在しています。また、痛みに寄り添ったケアを行う看護師やリハビリテーションを担当するセラピストもリウマチ診療には大きく寄与しています。そのため昨今では内科・整形外科・看護師・リハビリテーション科が高いレベルで協同するチーム医療が求められるようになってきました。
こうした背景を鑑みて、当院では2019年4月1日より、『リウマチ・膠原病センター』を発足させました。センターには膠原病内科医・整形外科医・看護師・作業療法士が所属しており、関節リウマチでお困りの患者様に多面的なアプローチができるよう密な連携を図りながら診療を行っております。さらに当院の栄養科やソーシャルワーカーとも提携し、医療の質の向上に努めております。
なお、リウマチ・膠原病センターに所属している看護師は日本リウマチ財団登録のリウマチケア看護師で専門性の高い知識を持ち、リウマチ・膠原病の患者様に対して適切なケアを提供できるよう研鑽を積んでおります。日常生活相談・内服相談・自己注射指導などはもちろん、『日本リウマチ学会登録ソノグラファー』の資格を有した看護師による"関節エコー(超音波)検査"によって、関節痛の原因や関節リウマチの活動性の画像評価も行っております。
-
リウマチ・膠原病内科
斯波 秀行(センター長:リウマチ専門医・リウマチ指導医・リウマチ学会評議員・リウマチ学会ソノグラファー)
金万 淳一(リウマチ専門医・リウマチ指導医・リウマチ学会ソノグラファー) -
整形外科
神原 清人(副センター長:リウマチ専門医)
佐藤 敦(医長:リウマチ専門医) -
作業療法士
山岡 裕史
-
リウマチケア看護師
塩田 晃久(リウマチ学会ソノグラファー)
濱田 明彦(リウマチ学会ソノグラファー)
当センターをお役立ていただくために
冒頭でリウマチ・膠原病は免疫の異常で起こるとお伝えしましたが、免疫の異常が起こる原因はその多くが未だに解明されていません。そのためガイドラインに沿った治療を行っても十分に効果が得られず、難治性の経過をたどることも少なくありません。特に膠原病はその多くが国の指定する特定疾患(難病)に含まれており、その治療の難しさを表しています。
当科のスタッフは関連病院である大阪医科薬科大学病院や淀川キリスト教病院で研鑽を積み、様々な患者様の診療に携わって参りました。これらの臨床現場で感じたことは、リウマチ・膠原病の治療には他の疾患と比べてより多くの時間を要するということでした。これは現代医学をもってしても、リウマチ・膠原病の治療において「治癒(完全に病気が消失すること)」は困難であり「寛解(病気は存在しているが活動性が抑え込まれていること)」を目指さざるを得ないという事実に起因しています。
また一般的に「寛解」と呼ばれる状態になったとしても必ずしもこれまでと同じようにご自宅で過ごしていただけるとは限らないのが実情です。これには様々な理由が想定されますが、主にADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)の低下が原因となることが多くなっています。具体的に申しますと、「関節リウマチによる関節の炎症は薬で良くなったが、ベッドで寝ている時間が長かったため筋力が低下し以前のように歩くことが出来なくなった」、というような場合です。
こうした場合では、ADLを向上させるためのリハビリテーションを入院で行うことで状況の改善が見込めるわけですが、リハビリテーションには時間がかかる(どれだけの期間のリハビリテーションができるかは基礎疾患に応じて国が定めています)ため入院期間が必然的に長くなります。またリハビリテーションが終了しても残念ながら自宅生活が可能なほどのADLに改善しない場合もあり、その場合は環境調整(施設への退院や療養病棟への転棟)が必要になるため、やはり入院期間が延びてしまいます。
特定機能病院など多くの病院で導入されているDPC(包括評価方式)によって医療費を算定する病院では一般的にこうした長期間の入院が困難なことが多くなっています。当院は出来高算定の方式を採っているため、長期間の入院でも対応が可能です。また、DPC方式では入院中に使用しにくい高額な製剤も、当院では使用することが可能な場合があります。こうした観点からも当院はリウマチ・膠原病の患者様の入院加療を行うのに適した体制を整えております。
このように当センターではリウマチ・膠原病に対する急性期治療はもちろんのこと、急性期治療後の寛解維持療法の継続・リハビリテーションによるADLの向上・環境調整のための入院継続、など様々なニーズにお応えする用意をしております。リウマチ・膠原病でお困りの患者様およびご家族様がおられましたら、お気軽に当院までご連絡ください。
主な対象疾患
- 関節リウマチ
- 全身性エリテマトーデス
- 全身性強皮症
- 炎症性筋疾患
- シェーグレン症候群
- 血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、結節性多発動脈炎、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、IGA血管炎)
- 脊椎関節炎(強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、ブドウ膜炎関連関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、掌蹠膿疱症性骨関節炎)
- リウマチ性多発筋痛症
- RS3PE症候群
- ベーチェット病
- 成人スチル病